特色ある共同利用・共同研究拠点 中間評価報告
共同利用・共同研究拠点(公立大学、私立大学)の
中間評価結果
(令和5年度)
文部科学省では公立大学及び私立大学の共同利用・共同研究拠点の活動状況や成果等を各拠点の認定開始後3年経過後に中間評価を実施することとしています。
このたび、令和2年度に認定した6拠点について、科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会共同利用・共同研究拠点等に関する作業部会(主査:井上 邦雄 東北大学ニュートリノ科学研究センター長)、及び特色ある共同利用・共同研究拠点に関する専門委員会(主査:関沢 まゆみ 人間文化研究機構国立歴史民俗博物館教授・副館長)において、書面評価、ヒアリング評価及び合議評価を実施し、評価結果が取りまとめられました。
1. 共同利用・共同研究拠点名 | 現象数理学研究拠点 |
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2. 認定期間 | 令和2年4月1日~令和8年3月31日 |
中間評価結果
※ 文部科学省「特色ある共同利用・共同研究拠点期末評価結果」より
評価区分
S
拠点としての活動が活発に行われており、関連コミュニティヘの貢献も多大であると判断される。
評価コメント
本拠点は、社会における様々な複雑現象を現象数理学の観点から解明する共同利用・共同研究拠点として、数学が浸透していない領域である人文・社会学との文理融合研究やライフサイエンス分野等との異分野融合研究の橋渡し役となり、各研究領域の発展に資するとともに、広く社会の要請に応えることを目的として拠点活動を実施している。共同利用・共同研究拠点としての活動が活発に行われており、関連コミュニティへの貢献も多大であると判断される。
特に、新たな研究領域との融合研究を開始し、研究テーマの新規開拓に積極的に取り組んでおり、新らたな学際領域の創出に資する活動が行われている。また、国外の研究拠点との連携が着実に進んでおり、今後の活動の発展が期待できる。さらに、学内外での連携による融合研究支援プログラム等の実施により若手研究者の育成に意欲的に取り組んでいる。また、機能強化支援を活用し、新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえリモートでの共同研究集会を可能とする設備の導入や共同研究に使用する大型計算機の更新を行い、共同研究者の研究環境の強化を図ろうとしている。
今後は、異分野融合研究の更なる研究成果の創出への貢献、拠点のアウトリーチ活動の工夫等により、拠点活動の一層の充実が図られることが期待される。
拠点の概要
※中間評価報告書より転記
拠点の目的
不確定な揺らぎの中でダイナミックに変化をしながら発展していく複雑システムは社会現象の様々な場面で現れ、このような社会現象を解明するための観測技術、観察技術、情報処理能力は我々の予想を遥かに超えて進みつつある。このような状況の中で喫緊の課題は、蓄積された膨大な情報データの中から「何が本質であり、何がそうでないか」を探ることによって、複雑システムを理解、解明することであり、それに対する貢献が数理科学に求められている。しかしながら、2006年文部科学省科学技術政策研究所の報告書「忘れられた科学‐数学」にもあるように、我が国では数理科学の社会への貢献が諸外国に較べて圧倒的に遅れている。一方、2008年JST研究開発戦略センターより、「複雑性」に起因する現代社会の難問が提示され、それに対する数理モデリングとそのシミュレーション、解析という数理科学からのアプローチは可能かが一つの論点になった。
以上のような状況を踏まえて、2008年、本学は先端数理科学インスティテュート(MIMS)を拠点として、社会、自然、生命現象の解明と数学の橋渡しである数理モデリングをミッションとする現象数理学を推進するために、グローバルCOEプログラム「現象数理学の形成と発展」に申請し、採択された。5年間の活動の後、2013年度からはその継承及び更なる展開を押し進めるために、中野キャンパスにおいて「現象数理学研究拠点」を設置した。今回の拠点申請は、これまで推進してきた拠点づくりの実績を生かして、社会における様々な複雑現象を現象数理学の観点から解明するための全国共同利用・共同研究拠点を構築することを目標としている。特に、大規模ネットワークとしての社会・経済・金融そして交通システム、感染症などの流行伝播、ビッグデータとセキュリティ処理、都市、町の形成等に関与する自己組織化現象など文理融合型の研究を数理モデリングの視点から押し進め、そのための共同研究と研究集会の場を提供して当該分野の研究の発展に資すること、そして同時に、国際レベルの拠点としての活動を継続・発展させることにより、広く社会からの要請に応えることを目的とする。
拠点における成果及び目的の達成状況
本拠点では 2020年度の認定更新後も引き続き、共同利用・共同研究拠点「現象数理学研究拠点」運営委員会のもとで共同研究集会の公募・審査・採択を行い、採択課題への旅費交通費の支援、会場提供、広報支援を継続して実施している。しかしながら、2020 年度より本格化した新型コロナウイルス感染症の影響で、共同研究集会をはじめ諸事業の対面での実施が困難となった。そのため、オンラインやハイブリッド型プレゼン設備による支援体制の試行・改良を図り、関連設備や開催マニュアルを整備した結果、コロナ禍以前に近い件数の共同研究集会を開催するとともに、後述のオンラインを積極的に活用した新規事業を複数立ち上げることができた。
1.新しい文理融合型共同研究のスタート支援
拠点運営委員会による公募課題の審査・採択により、社会物理学とその周辺、折り紙の科学を基盤とするアート・数理・工学への応用、錯覚の解明・創作・利用への諸アプローチ、経済物理学とその周辺、等の文理融合をテーマとした共同利用・共同研究集会が実施され、人文科学分野や芸術への応用も含めた現象数理学の新しい地平を切り拓きつつある。さらに、拠点内の研究者が中心となって、方言など文化形質の伝播過程を推定する手法の確立や、芸術作品としての錯視立体の創作、扇の折りたたみ角度と扇面に描かれた図柄の変化の連動など、我が国の伝統文化の理解と現代的展開につながる成果(別紙3)を生み出している。
2.ライフサイエンスと数理科学の融合分野の共同研究の強化
2019年度からの学内ファンドによる整備を下地に、2020年度より、卓越大学院構想に基づく本学の理系分野(理学、工学、農学、数理科学)融合領域に関わる「現象数理・ライフサイエンス融合教育プログラム」(学内プログラム)が推進されることとなった。その推進機関として「現象数理ライフサイエンス融合研究拠点」が設置され、MIMSも協力機関として参画した。この取り組みは2022年度でその活動を終了したが、この間、山梨大学や広島大学などと大学間共通科目を通じた院生の講義履修・単位互換や、教員間の共同研究が行われた。
上記プログラムと呼応する形で、本拠点では新規事業「ライフサイエンス・数理科学融合研究支援プログラム」を立ち上げた。本プログラムでは、細胞のエネルギー代謝と共生動態、生物集団の社会的機能の発現、行動推定による飼育動物の基礎生態解明、エントロピー生成からみた生命現象に関して、解析的手法・数値的手法・統計科学的手法などを用いて遂行する新規の研究課題を採択・支援した。これらは、数理科学的手法を通して行う新たな異分野融合研究につながるものと期待される。
3.研究集会の機動的な運営
コロナ禍に対応すべく、従来の対面方式に代わるオンラインやハイブリッド形式による研究集会の開催を模索した。その中で、機器整備や運用支援のノウハウを蓄積し、オンライン研究集会の開催をマニュアル化し、共同利用・共同研究拠点としてのサービスの維持ならびに新しいサービス形態の創出に努めた。さらに、オンラインを積極的に活用した事業を新たに開始した。主なものは、「現象数理学拠点リモートセミナー」、「SMP計算機システムを用いた数値シミュレーション講習会」、「Python講習会」、「高校生のための現象数理学入門講座と研究発表会」、「山口大学・時間学研究所との連携セミナー」である。 さらに、国際的拠点としての活動である現象数理学国際会議(ICMMA2020,ICMMA2021,ICMMA2022)をオンラインで開催した。テーマは、それぞれ「数理科学による快活生活のデザイン」、「群れにおける組織化と協調の創発」、「トポロジーとその工学・生命科学への応用」である。国際的なリーダーを講演者として招き、活発な議論を通して本拠点の存在と重点的研究活動を国内外へ広く周知することができた。また、拠点間の国際交流として、ボルドー大学数学研究所数理生態学センター(フランス)、ペンシルベニア大学数理生物学センター(アメリカ)、フランス国立科学研究センター(CNRS)の国際研究ネットワーク(IRN)等の海外の研究組織と、人的交流や研究プロジェクトの共有による連携強化を図っている。
さらに、本拠点の運営母体である明治大学先端数理科学インスティテュート(MIMS)および大学院先端数理科学研究科とペンシルベニア大学数理生物学センターとの間で、数理生物学および関連分野の学術交流に関する協力協定書を2023年3月に締結するとともに、同センターの2名の所長を招聘して独立開催型研究集会に準ずる特別講演会を開催した。
これらの拠点活動は数理科学関連コミュニティからも認められており、日本学術会議による未来の学術振興構想ビジョンの公募においては、日本応用数理学会などからの強い要請を受け、本拠点の運営母体であるMIMSが「文理融合」の観点から提案を行うに至った。また、九州大学が幹事校となった文部科学省科学技術試験研究委託事業:AIMaP(数学アドバンストイノベーションプラットフォーム)活動にも協力し、「独自の新しい、唯一、リアルタイムで最適制御可能な“エネルギー最適制御(EOC)”と因果の分かる機械学習」が注目された。文部科学省研究振興局HP「2030年に向けた数理科学の展開 ―数理科学への期待と重要課題―」では2006年~2021年の異分野融合・産学連携の代表例の1つに選ばれるなど、関連コミュニティとの結びつきや影響も増している。
2020年度から2022年度までは機能強化支援を受け、2020年度に共有メモリ型(SMP)計算機システムを先進的な最新の構成に更新し、約20倍の計算高速化を実現。全国の研究者に、数理モデルのシミュレーション解析等を行うための高速で安全な計算環境を提供することが可能となり、拠点としての役割を一層強化することができた。さらに、2021年度には需要の高い並列計算能力を強化するため、新たなGPGPU計算用サーバーを導入し、さらなる利用者の利便性を図った。同様に機能強化支援により、2022年度にオンラインと対面を併用したハイブリッド型の最新プレゼン設備を導入し、コロナ禍中でも機動的な共同研究集会の支援を行うことができた。
[自己評価]
本拠点事業で推進する項目のうち、「1.新しい文理融合型共同研究のスタート支援」「2.ライフサイエンスと数理科学の融合分野の共同研究の強化」に関しては、共同利用・共同研究拠点としても、拠点内部での研究活動においても、文化・医学・動物の行動など、従来数理科学と馴染みが薄かった分野との融合を指向する研究集会や共同研究がスタートし、様式3に記したように、学術論文や特許などの成果も産出されつつある。ただし、折紙工学などの特許を実際の製品開発につなげるのは費用面など課題も多く、 2022年度に立ち上げたベンチャーを利用して開発の加速を図る。
「3.研究集会の機動的な運営」で掲げられた事項も、今後の感染症流行にも対応可能なオンラインまたはハイブリッド型開催の研究集会のルール作りとノウハウの蓄積、海外拠点との連携の強化などを通して実現されつつあり、当初の目的は概ね達成できたと考える。一方で、国内・海外からの拠点への来訪者の激減などもあり、独立開催型研究集会を対面で実施してその意義を広く浸透させることが困難であった。今後、研究者の訪問件数の回復とともに、独立開催型研究集会を機動的に運営し、拠点活動の一層の充実を図る。